1984年、福島県会津若松市生まれ。2006年3月に会津大学コンピュータ理工学部を卒業後、渡米。2008年7月にオクラホマ州立大学大学院でコンピュータ科学の修士号を取得。その後、会津大学大学院博士課程在学中にカナダ・ウォータールー大学で訪問研究員を務め、2012年3月会津大学大学院にてコンピュータ理工学の博士を取得した。東北大学で日本学術振興会特別研究員を経て、2013年から室蘭工業大学大学院工学研究科の助教、2019年から准教授(文部科学省 卓越研究員)、2022年から教授を務めており、同大学が2023年4月に新設したコンピュータ科学センターの所長も兼任している。
専門はコンピュータ科学。きっかけは父親に買ってもらった一台のパソコン。当時高校生だった太田さんは、電子掲示板で顔も名前も知らない人と瞬時につながるインターネットの世界に衝撃を受け、コンピュータを学べる大学へ進学。その後、米国の大学院では無線センタネットワークについて研究し、会津大学の博士課程からIoTの研究を続けている。室蘭工業大学に着任後はワイヤレスネットワーク研究室を主催し、これまでのIoTの研究のほか、6G通信システム、さらにAI技術を適用した医工学連携など新たな研究にも挑戦している。研究成果は、世界最大規模の電気情報工学分野の学会であるIEEEが発行する刊行誌を中心に200件以上の学術論文をこれまで発表し、2021年にはJSTの戦略的創造研究推進事業さきがけ研究者に選定された。
当財団の支援金で行うのは「6Gのための無線システム知能化に関する研究」。IoT社会の到来により、2020年からの10年間に世界のインターネット通信量は毎年55%ずつ増加すると予測される。さらに世界的なレベルで無線通信用の周波数枯渇が課題となっている。太田さんは今後日本が次世代通信6Gで世界にアドバンテージを取ることは非常に重要であると考えており、2つのアプローチにより課題解決を試みる。一つは既存周波数帯の有効利用であり、AI技術を適用することで無線機器自身が周波数利用可否を自律分散的に判断する技術を確立し、周波数の利用効率向上を目指す。もう一つは未使用の周波数帯の利用。ミリ波などの直進性が強い高周波数帯の電波をRISと呼ばれる特殊な反射板を使用することで任意の方向へ反射を制御するシステムを研究し、これまで利用制約があった通信範囲を拡大して屋内外で自由に利用できるようにすることで医療や畜産農業など多様な分野への応用につながることを期待している。
女性研究者はキャリア形成の重要な時期とライフイベントが重なることが多い。太田さんは学生結婚し、2人の子供がいる。競争的資金の応募資格に年齢制限がある場合でも、産休育休期間が除外されるなど、徐々に制度が整ってきているとはいえ、育児中は研究に時間を割くことは難しいと感じている。時には、自身の経験を女子学生や女性研究者との交流会で話すなど、より多くの後進が安心して活躍できる社会になることを願っている。