覚道(かくどう) 奈津子 (なつこ) (44)

  1977年、大阪府生まれ。2002年3月、関西医科大学医学部を卒業。医師免許を取得後、関西医科大学附属病院の形成外科に入局。高槻赤十字病院や大阪赤十字病院でも形成外科研修を行い、2004年4月、関西医科大学大学院博士課程に入学した。専門は形成外科学で、再生医療の分野で脂肪幹細胞と多血小板血漿をテーマに基礎研究を行い、2007年には英国のロンドン大学キングス・カレッジに留学して乳房再建法の最新の手術法と創傷治癒の治療法を学んだ。2008年3月に博士課程を修了。博士号を取得し、日本形成外科学会専門医の資格も取得している。2008年4月から関西医科大学医学部形成外科学講座の助教に就任。その後、同講座の講師、准教授を務め、2021年4月から現職の主任教授となり、形成外科講座を主宰している。
 間葉系幹細胞は、骨芽細胞、脂肪細胞、筋細胞、軟骨細胞など、間葉系に属する細胞への分化能を有し、種々の生理活性物質を分泌し、免疫抑制作用も併せ持つことから再生医療に対する臨床応用が期待されている。間葉系幹細胞は骨髄をはじめ、種々の組織から樹立できることが知られており、脂肪組織中に存在する間葉系幹細胞(脂肪幹細胞,Adipose-derived Stem Cells, ASCs)が存在することが報告された。覚道さんは脂肪幹細胞の臨床応用への有効性に早くから着目。ヒト脂肪幹細胞を分離し、増殖因子や低酸素環境を用いて分化・増殖効率のよい培養法を確認しそのメカニズムを解明するとともに、さまざまな動物幹細胞移植モデルの作成に成功した。現在、臨床応用への基盤データの収集を行い、幹細胞治療の確立を目指したトランスレーショナル研究を開始している。大学院卒業後は一貫して、脂肪幹細胞の再生医療への臨床応用を目指して基礎研究を続け、再生医療の発展への貢献が認められ2008年に、ロレアル‐ユネスコ女性科学者奨励賞(生命科学部門)を受賞している。
 当財団の支援金で行う研究のテーマは、「ヒト脂肪幹細胞の特性解析と再生医療への応用:新たな乳房再建法の確立」。自己組織・幹細胞による有効性の高い乳房再建法が確立され、多くの施設で一般に行われる治療法になれば、乳がん術後の乳房変形などの患者さんのQOLはさらに向上すると思われる。覚道さんは、患者自身から採取した脂肪幹細胞を混ぜた遊離脂肪をがん摘出手術により欠損した部分へ移植するという、新たな幹細胞再生治療を開発している。幹細胞の持つ組織生着促進メカニズムを解明と適切な移植細胞量を前臨床研究として検討し、その後に臨床効果と安全性を評価する臨床研究を行い、臨床研究の結果をもとに先進医療・治療につなげ、最終的には、多くの人が選択できる治療法になることを目指している。
 女性医師や研究者はキャリア形成の重要な時期とライフイベントが重なることが多い。覚道さんは大学内や学会における女性医師・研究者への支援委員会委員も兼務しており、ライフイベントの困難に直面しても仕事を継続できるような、相談・支援体制を構築していきたいと考えている。