1975年、東京都生まれ。早稲田大学理工学部から同大学院理工学研究科修士課程へ進み、表面物理(特に金属表面の構造解析)の研究を行う。2001年4月から2年間のメーカー勤務を経て、東京大学大学院総合文化研究科の博士課程へ進学。2007年3月に単位取得満期退学し、4月から同総合文化研究科で産官学連携研究員となり、2007年12月に生物物理(特にDNAナノテクノロジー)の分野で博士号を取得した。博士課程での研究が先駆的であると評価されて2008年10月から2013年3月まで科学技術振興機構のさきがけ研究員に採用。その期間中に米国のブルックヘブン国立研究所で新しいナノ素材の創製を研究する機会にも恵まれた。2012年5月、名古屋大学大学院工学研究科の准教授に着任。2015年10月から現職の名古屋大学未来材料・システム研究所 未来エレクトロニクス集積研究センター(CIRFE)の准教授を務めている。
1ナノメートル(nm)は、10億分の1メートル(m)。1メートルと1ナノメートルの比は、地球とおはじきの大きさの比とほぼ等しい。田川さんは、DNA分子やDNAナノ構造体を結合させたり、脂質二重膜を基盤として用いたりすることで、金属ナノ粒子の二次元・三次元構造を制御する研究を続けてきた。ナノ粒子は、それ自身では秩序的な周期構造へと配列することはできないが、塩基配列を適切に設計したDNAをナノ粒子に結合させる(DNA修飾ナノ粒子)と、DNAの塩基配列に従ってナノ粒子間の相互作用と結合・非結合が制御され、ナノ粒子の配列が決まる。DNAの塩基配列を変えることでナノ粒子の配列順序も制御でき、さまざまな高次構造(DNAナノ粒子超格子)を製作できる。田川さんの「DNAを用いたナノ粒子超格子構造化」の手法は、5nm~20nm程度のナノ粒子を自由に組み合わせてデザイン通りのナノ構造を形成することができる。最近の成果では結晶形状が多面体をした高品質の単結晶を成長させられるようになっており、ナノ粒子粒径とDNAの厚みを調整することで、脱水・乾燥させても結晶構造を維持できる超格子構造形成条件が見いだされている。しかし、どのような条件で作製してもナノ粒子間距離が5nmまでしか近づかない、粒径4nm以下の粒子の超格子構造を形成しづらいという問題がある。そこで当財団の支援金で「DNA修飾ナノ粒子超格子の結晶スポンジ法による異種ナノ素材のハイブリッド超格子化」をテーマに研究を進め、全く新しいナノ構造作製法・ナノ複合材料創製法を確立したいと考えている。
田川さんは二児の母親でもある。夫と実家は遠方のため平日は一人で子育てをしている。数少ない工学系女性研究者のため学会や学内予算審議などの仕事も多く研究時間の捻出には苦慮しているが、理系を目指す女子学生のロールモデルとなっている。天野浩氏がセンター長を務めるCIRFEには「若手研究ユニット助成金制度」があり、田川さんの研究は制度開始初年度の平成29年度に採用された。センターとしても工学研究科専攻としても、初めて採用された、唯一の女性教員であり、多角的な観点とグローバルな視点を持った人材として期待されている。