1969年、広島県生まれ。ノートルダム清心高等学校を卒業後、京都大学医学部へ進学し、女性の心と体をトータルで診る女性医療を志す。1994年に医学部を卒業後、京都大学医学部附属病院産科婦人科の研修医、国立京都病院産婦人科のレジデント、京都桂病院産婦人科の副医長など一般臨床の現場で経験を積み、産婦人科専門医の資格を取得した。2001年、京都大学大学院医学研修科博士課程へ進み、生殖医学分野の基礎研究を行い、2005年9月に医学博士号を取得した。一時期、臨床研究の第一線から離れたが2010年に京都大学大学院医学研究科エコチル調査京都ユニットセンターの特定助教に抜擢され、環境省の「子どもの健康と環境に関する全国調査(エコチル調査)」の京滋地区調査でコーディネート能力を発揮した。江川さんは2014年から京都大学医学部附属病院産科婦人科の特定病院助教を務めており、女性特有の病気や症状に対するヘルスケア外来や女性漢方外来を担当している。
女性の健康を生涯にわたり予防医学的観点に立って包括的に支援する必要性が近年認識されており、2014年に「女性ヘルスケア」がわが国の産婦人科学会における新たな専門領域になっている。卵巣から分泌される女性ホルモンの変動は心身両面に大きな影響を与え、月経前、周産期、更年期には女性特有の「うつ」が発症するリスクがある。有経女性の20~40%に月経前症候群(PMS)があるとされ、その最重症型は月経前不快気分障害として精神疾患に分類されるが社会的認知度は低く、十分なケアや治療が行き届いていない。
現時点でPMSの発生メカニズムは未解明であり、客観的な診断マーカーは存在しない。PMSは正常な排卵周期で出現する。また女性ホルモン分泌量に異常はなく、自覚症状の記録と申告に基づく“症状発生時期と反復性”のみが診断根拠となっている。江川さんはPMSの診断と治療・ケアの標準化を目指し当財団の支援金で、月経周期に関連して変動する客観的指標をニューロサイエンスの視点から探索し、PMSの病状の新たな評価方法を構築したいと考えている。客観的指標を見出すことができれば、PMSの診断法の革新、病型分類、合理的な治療法選択が可能になる。このような標準化によって、産婦人科と精神科の境界領域にある患者へ適切な支援が行きわたる可能性や、重症化を防げる可能性が拓かれる。さらに本研究の成果が、更年期障害や自律神経失調症、心身症、精神疾患の身体化症状など、いわゆるメンタルの不調や不定愁訴の“見える化”に示唆を与えることができるのではと期待している。
江川さんは2児の母親でもある。研究と家事、育児の両立に苦慮しながら職場と家族の理解と協力を得て学位を取得した。30代後半に家庭の事情で5年間仕事に就けなかったブランクは大きいが、それを乗越えるため研究に勤しみ、また外来診療とヘルスケアの重要性啓発のための講演活動も続ける姿勢は、産婦人科医が社会へ果たす役割の、一つのロールモデルとなっている。