髙橋 (たかはし ) 政代 (まさよ ) (54)

 1961年、大阪府生まれ。小学生の頃は本を読むのに夢中になりご飯を食べるのを忘れるほどの文学少女。中学時代は優等生。高校生の時は軽音楽部に所属し、レッド・ツェッペリンに夢中になった。高三の夏、親から大学に入るか社会人になるかの二択を迫られて大学進学を選択。京都大学医学部へ入学した。学生時代について聞かれると、所属していたテニス部で猛練習に明け暮れた日々を思い起こすが、眼科医として患者の眼を治すという強い信念と明確な目的意識を持ってからは、テニス部で培った根性と類まれな集中力で、研究に情熱を注ぐようになっていった。
 髙橋さんは人や物との出会いから人生を開拓し、夢を叶えてきた。脳神経外科医である夫の淳氏は京大の同級生。大学卒業と同時に結婚。家庭と仕事の両立を考えて、専門分野は眼科を選んだ。1992年、京大大学院医学研究科博士課程を修了し、医学博士号を取得。一人前になるには留学経験も必要と、1995年、夫の米国留学に2人の娘と同行し、自身もソーク研究所に勤めた。髙橋さんはそこで、発見されたばかりの神経幹細胞を知る。当時、中枢神経系は一度損傷を受けると再生できない、脳の神経の先端部分である眼の細胞も再生不能と考えられていた。しかし、同研究所のゲージ博士が成人の脳にも神経幹細胞が存在し、新しい脳細胞が生まれていることを発見したことで網膜の再生医療に光が差し込んだ。網膜治療を使命と思った髙橋さんは、帰国後、京大附属病院で臨床医として患者と接する傍ら研究にまい進する。望ましい結果が得られない日々が続いていた2000年頃、大学の同級生だった理化学研究所の笹井芳樹氏もES細胞の研究をしていることを知り、後に共同研究で、世界初となるヒトES細胞から神経網膜の分化誘導を行うことに成功する。残念ながらES細胞は臨床試験へ発展しなかったが、京大の山中伸弥氏が人工多能性幹細胞(iPS細胞)の開発に成功したことで、網膜再生医療は新たな局面を迎える。
 2006年に理化学研究所へ異動。現在、同研究所の多細胞システム形成研究センターで網膜再生医療研究開発プロジェクトのリーダーを務めている。2013年夏から目の疾患を対象にiPS細胞を使った世界初の臨床研究が始まり、髙橋さんはプロジェクトを統括した。昨年9月、自身が提供した網膜細胞が加齢黄斑変性患者へ移植される世界初の手術が実施された。この網膜細胞が臨床治験を経て実用化されるのは先になるが、一つの夢が実現した。この功績により髙橋さんは、英国ネイチャー誌が選ぶ「2014年に注目すべき5人」に選ばれた。
 自身のことを振り返り、子どもたちには、何をしたいかわからない間はさまざまなことに興味を持ち、目標が定まってから全力で取り組んでもらいたいと願っている。