村上(むらかみ) 一枝(かずえ) (73)

 1940年、北海道生まれ。村上さんは四半世紀近く、世界の最貧国の一つである西アフリカのマリ共和国で暮らし、自身が代表理事を務める「特定非営利活動法人 カラ=西アフリカ農村自立協力会(以降 カラという)」の活動を支えてきた。
 村上さんの人生は、約30年前の海外旅行をきっかけに大きく変わった。新潟市内で小児歯科医院を開業していたとき、サハラ砂漠観光で訪れた、西アフリカのマリ共和国。目にした光景は、日本では治る病気で亡くなってゆく大勢の幼い子どもたち。神様が連れていくのだから仕方がないとあきらめている母親たちの姿。日本との格差にショックを受けた村上さんは、マリの人々の劣悪な生活環境、とりわけ子どもたちの医療環境改善のために何かをしたいと思ったという。日本へ戻った村上さんは、大学の後輩に医院を譲り、家屋を処分することで自身の退路を断ち、人生の後半をサヘル〔=サハラ砂漠南縁部に広がる半乾燥地域〕の人々と共に生きる決意をして、単身でマリへ渡った。1989年のことだった。
 最初は、日本のNGOのスタッフとして植林や病気予防に携わった。翌年には、現地のローカルNGOに加わり農村医療を実践した。1992年に「カラ」の前身となる「マリ共和国保健医療を支援する会」を日本で設立。翌年、現在の名称に改名し、2002年に東京都のNPO法人格を取得した。「カラ」はマリ政府から外国籍NGO認定を受けて、砂漠化と疾病、貧困に苦しむ西アフリカの農村地域において住民と共に、農村で暮らす人々が自立できるよう活動している。
 村上さんが子どもたちの医療環境改善を願って始めた小さな活動が今では、飲用・農業用の井戸を設置する水資源確保事業、菜園造成などの栄養改善事業、産院・診療所・トイレ建設などの保健衛生知識事業、マラリア・エイズ予防や寄生虫駆除などの病気予防事業、識字教育や学校建設などの教育普及事業、女性への縫製技術指導などの生活改善事業、改良カマド普及による環境改善事業などへと広がっており、緩やかではあるが農村の人々の生活の質は向上してきている。
 「カラ」の活動は、賛同者の会費と寄付により支えられている。村上さんは時々帰国して報告会を行い、支援を呼び掛けている。本年3月、「カラ」が毎日新聞社主催の毎日地球未来賞を受賞した折も帰国し、表彰式の受賞記念講演会で医療と教育の大切さを訴えた。

ソロプチミスト日本財団は平成7(1995)年、マリで活躍している村上さんへ女性ボランティア賞を贈呈しました。それから20年近くの時を経て本年再び、社会貢献賞と千嘉代子賞を贈呈することとなりました。 マリに暮らし、「カラ」の活動を支え続けてきた村上一枝さんに対し、心から敬意を表します。