岩井(いわい) 佳子(よしこ)(43)

 1971年、東京都生まれ。1996年3月に東京医科歯科大学医学部医学科を卒業。臨床研修後、研究者の道を志し、京都大学大学院医学研究科へ進学。2002年3月に博士課程を修了し、医学博士号を取得した。
 京都大学大学院医学研究科助手や米国ロックフェラー大学客員研究員を務めた後、東京医科歯科大学特任講師、准教授を経て、2013年4月から現職の産業医科大学医学部教授を務めている。
 岩井さんはこれまで、免疫担当細胞の一つであるTリンパ球に発現する、抑制性免疫受容体(PD‐1)と抑制性転写因子(BATF)に関する研究を行ってきた。京都大学大学院では、米国のハーバード大学との共同研究でPD‐1に特異的に結合するリガンドの同定に成功したことで、がんが宿主の免疫監視から逃れるメカニズムの解明に成功。その後の研究で、腫瘍やウイルス感染に対する免疫応答におけるPD‐1の役割について解析を行い、PD‐1シグナル阻害剤が原発性腫瘍のみならず転移性腫瘍の抑制やウイルス感染の除去に効果を示すことを証明した。さらにロックフェラー大学では、生体内で直接抗原を樹状細胞(免疫系でリンパ球に抗原を提示する細胞)に運ぶ遺伝子工学的手法を学んだ。岩井さんが大学院生時代に行った研究は新しい抗がん剤の開発につながり、米国での臨床治験を経てこの夏日本でも新薬として承認された。
 現在興味を持っているのは、免疫抑制シグナル分子を介した内分泌系および神経系の制御機構。当財団の支援金で、BATFが免疫応答だけでなく、代謝や神経系の調整にも関与することを証明し、免疫系・内分泌系・神経系のネットワーク機構を立体的に解明しようとしている。関係が明らかになれば、慢性炎症によって引き起こされるがんや生活習慣病など、さまざまな疾患の病態が解明され、新しい予防法や治療法が開発される可能性がある。
 大学院で研究者としてのトレーニングを始めてから独立研究者として安定的な身分を確保するまでの約15年間、岩井さんはキャリアを中断することなく研究に打ち込んできた。この期間は女性として重要なライフイベントが重なる時期でもある。時には悩みながら、大好きな研究を続けてきたが、有望な新薬の承認という形で結実したことで、医師あるいは研究者として自身が歩んできた道程は間違っていなかったという思いを強めている。
 本年4月から大学の男女共同参画推進センター長に就任し、8月から文部科学省学術調査員も務めている。岩井さんは、仕事が好きな人も家庭が大切な人も、それぞれが才能を十分生かせる職場環境を整える必要性を感じており、男性の理解も得ながら、さらに女性が活躍できるよう、学生や教職員を積極的に支援したいと考えている。