田崎(たざき) 和江(かずえ)(68)

 1944年、長野県生まれ。金沢大学名誉教授。幼くして父親を亡くした田崎さんは働きながら定時制高校を卒業し、東京学芸大学教育学部へ進学。教師をしながら夜間、東京教育大学(現筑波大学)へ通い、1977年に理学博士号を取得した。大好きな地学をより専門的に学ぶため、1980年にカナダへ留学。カルガリーの地質調査所やモントリオールの大学で地質学、微生物学、地球環境科学の研究に没頭。帰国後、島根大学や金沢大学で研究を続けた。金沢大学では、温泉の効能、見つけ方、掘り方などを学ぶ「ゆったり湯学」と題した一般教養の講座を開き、大勢の学生が詰めかけるユニークな授業を行った。温泉の涌出口にみられるヌルヌルは、微生物が温泉水の成分を取り込んで浄化しながら鉱物をつくる薄い膜。田崎さんは、これをバイオマットと名付け、汚染水の浄化や医学方面にも活用できると期待している。1997年に島根県沖で座礁したロシア船籍タンカー「ナホトカ」の重油流出事故への対応は顕著な活動の一つ。石川県の海岸に漂着した重油を採取し、汚染された海水中に油を分解する微生物を発見した田崎さんは、この石油分解細菌を利用することを提唱し、環境破壊につながる界面活性剤投入を阻止。5~10年近くを経て重油は無害な「ろう」成分だけになり、海岸線は美しさを取り戻している。
 2009年に金沢大学を退官後、ユネスコの依頼でタンザニアの大学創設に携わる一方、ベトナム・ホーチミン近郊のラック・ホン大学の客員教授に就任した。タンザニアでは水田土壌中に放射性物質を吸着して拡散を防ぐ、「ミクロ石棺」としての効果が期待できる細菌を発見した。現在は国内で、福島の土壌から、同様の効果が期待できる微生物が発見できないか、研究を続けている。